日本版画協会巡回展 新潟(2023) 南魚沼 士別巡回展から約半年後の2023年6月4日〜7月9日、新潟県南魚沼市浦佐の池田記念美術館にて開催されました。池田記念美術館への巡回展招致には理事の大沼正昭さんのご尽力により初めて開催する運びとなりました。加えて巡回展係を歴任した大沼さんには準備から開催の全てにおいてご協力頂きました。先ずこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。 南魚沼巡回展に関して前回の士別と大きく異なる点は二つです。一つは初めての巡回展ということで開催のイメージがつきにくいことです。未開の巡回展開催はご対応頂いた高橋良一館長も不安を抱いていたことでしょう。そのため今回は東京上野で打ち合わせの席を設けたり、実際に池田記念美術館へ伺うなどより綿密な調整と話し合いを行いました。そのおかげでお互い気持ちに余裕と安心感を持って南魚沼巡回展を開催することができたかと思います。 二つ目は2022年度第22回はんが甲子園の受賞作品を同時展示するという企画です。新潟県佐渡市を舞台に全国の高校生が版画の腕を競い合うこの大会は、これまでも日本版画協会版画展で同時展示されています。場所は離れていますが同じ新潟で、高校生の若い力を同じ空間に並べることは新潟にとっても版画協会にとっても、これから先に目を向けた大切な取り組みだと思います。そうして南魚沼巡回展では作品87点、そしてはんが甲子園受賞作品14点を加えた計101点の展示を実現しました。(後のワークショップ作品を含めると計105点) 南魚沼滞在では理事長の小林敬生さんと理事の上野遒さんに展示会場の監督とギャラリートークをご担当頂き、私はワークショップを担当させて頂きました。 6/4のワークショップは子ども向けの「自然を版にしてみんなで大きなアート作品を作ろう」というタイトルでフロッタージュ技法による共同制作を行いました。日本版画協会巡回展で子ども向けのワークショップはおそらく初めての試みだと思います。これは高橋館長の美術館の取り組みと私の巡回展の方向性が一致した結果生まれました。高橋館長は学校教育と美術館の連携を重視しており、今回のワークショップ参加者の子どもは地元の学童クラブや高校にお声掛け頂き、飛び入りも含め10人ほど児童生徒が参加頂きました。 フロッタージュは学校で教材としても扱われる素材の凹凸を紙に鉛筆や木炭、クレヨンなどで写し取る技法です。版となる素材は池田記念美術館内の壁や床などの人工物や美術館外の公園にある草や木などの自然物です。使用した紙は雁皮紙などの和紙、描画道具はクレヨン、パステル、クーピー、色鉛筆、ペンなども用意しました。 導入では版画の仕組みと版について参考程度に説明し、フロッタージュでは身の回りにある凹凸を版にして形や模様を写し取ることを実演を交えて教えました。そして道具を持って外で素材を探し写す子や、美術館の壁や床を写す子など各自の判断でフロッタージュに取り組みました。引率の先生や保護者の方も一緒になって作業に取り組んでいました。 次の展開ではフロッタージュで得た和紙を大きな木製パネルに貼り込むという作業でした。木製パネルには事前にシリウス水彩紙を水張りしており、その上に水に溶いた糊をローラーで広げその上に和紙を貼っていきます。このワークショップの1番の特徴として和紙を貼り重ねても下の色や形が隠れないことにあります。それは雁皮紙の薄さを応用したもので、おかげで子どもはためらうことなくパネルに和紙を貼っていきました。そして貼り重ねれば重ねるほど形も色も複雑になりまた華やかになっていきました。シュールレアリストたちもびっくりな表現です。 そうしてどんどん貼り重ねていき、まとめの段階では最後に作者である子どもたちの名前を書いた和紙を貼り込んで無事に作品4点が完成しました。どの子もアンケートにはフロッタージュの楽しかった気持ちを文字にしており今回のワークショップは大成功でした。このワークショップ作品は子どもたちがそれぞれつけたタイトルと共に、巡回展の最初の部屋である企画展示室前の入り口の壁一面に展示しました。これにより小学生から高校生、そして会員という大きな広がりを持った展示会場となりました。またこのワークショップ作品は巡回展後の別の企画展でも特別展示の予定とのことです。 このワークショップの成果は子どもたちへの版画のきっかけとなっただけではありませんでした。ワークショップにお越しいただいた上越教育大学の松本健義教授の研究資料となり、場合によっては研究や論文を見た大人や教員の糧になり、結果また子どもへの教育に還元されるかもしれません。さらに途中、南魚沼市教育委員会教育長が出張前というお忙しいスケジュールの中、飛び入りでワークショップにご参加頂き子どもたちと共にフロッタージュと貼り込みを体験されました。この突然の教育長来訪には理事長はじめ皆さまとても驚いておりました。ワークショップが終了し子どもたちが帰り、静かになった空間で、巡回展係と池田記念美術館そして南魚沼市の子どもへの教育の歩みが一致した清々しさを感じました。次に繋がる巡回展になることを期待しています。 その後のギャラリートークではワークショップも体験して頂いた小林敬生さん、上野遒さんの采配の元、有志で大沼正昭さん、そして遠方よりご来館下さいました磯見輝男さん、園山晴巳さんもご参加頂きました。特に上野さんは南魚沼市と縁が深く、戦後南魚沼市六日町に移り住んだ父 上野誠さんとの思い出や、作品が発する詩という解釈など興味深いものがありました。会場には新潟在住の画家や彫刻家、版画コレクターの方々がお越しになり、先生方の話を真剣に聞き入っていました。その後の懇親会も皆さまご参加頂き、盛大な席となりました。新潟のお米とお酒は格別でした。こうして私の巡回展係としての2022年度の大仕事が終わりました。 初開催という今回の巡回展だったため南魚沼滞在では以下のように多くの成果を得ることができました。 ・池田記念美術館での巡回展の隔年開催の意向を得ました。美術館のスケジュールの都合上2~3年後とのことです。 ・日本版画協会と南魚沼市教育委員会教育長との繋がりを得ました。巡回展の継続や地域との交流や発展に大きく関係することと思います。 ・須坂版画美術館での巡回展開催に向けた打ち合わせをしました。長野県須坂市にある須坂版画美術館から学芸員の方がご来館下さいました。会員の岩切裕子さんのご紹介で事前に学芸員の方とコンタクトを取らせて頂き、隣県ということもあり池田記念美術館に足をお運び下さいました。須坂版画美術館は今後改修工事が始まるとのことで巡回展開催は1~2年後とのことです。今後の進展を期待しています。 ・はんが甲子園作品の合同展示や子どもに向けたワークショップ、そして完成した作品の展示を実現しました。
南魚沼 士別巡回展から約半年後の2023年6月4日〜7月9日、新潟県南魚沼市浦佐の池田記念美術館にて開催されました。池田記念美術館への巡回展招致には理事の大沼正昭さんのご尽力により初めて開催する運びとなりました。加えて巡回展係を歴任した大沼さんには準備から開催の全てにおいてご協力頂きました。先ずこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。 南魚沼巡回展に関して前回の士別と大きく異なる点は二つです。一つは初めての巡回展ということで開催のイメージがつきにくいことです。未開の巡回展開催はご対応頂いた高橋良一館長も不安を抱いていたことでしょう。そのため今回は東京上野で打ち合わせの席を設けたり、実際に池田記念美術館へ伺うなどより綿密な調整と話し合いを行いました。そのおかげでお互い気持ちに余裕と安心感を持って南魚沼巡回展を開催することができたかと思います。 二つ目は2022年度第22回はんが甲子園の受賞作品を同時展示するという企画です。新潟県佐渡市を舞台に全国の高校生が版画の腕を競い合うこの大会は、これまでも日本版画協会版画展で同時展示されています。場所は離れていますが同じ新潟で、高校生の若い力を同じ空間に並べることは新潟にとっても版画協会にとっても、これから先に目を向けた大切な取り組みだと思います。そうして南魚沼巡回展では作品87点、そしてはんが甲子園受賞作品14点を加えた計101点の展示を実現しました。(後のワークショップ作品を含めると計105点) 南魚沼滞在では理事長の小林敬生さんと理事の上野遒さんに展示会場の監督とギャラリートークをご担当頂き、私はワークショップを担当させて頂きました。 6/4のワークショップは子ども向けの「自然を版にしてみんなで大きなアート作品を作ろう」というタイトルでフロッタージュ技法による共同制作を行いました。日本版画協会巡回展で子ども向けのワークショップはおそらく初めての試みだと思います。これは高橋館長の美術館の取り組みと私の巡回展の方向性が一致した結果生まれました。高橋館長は学校教育と美術館の連携を重視しており、今回のワークショップ参加者の子どもは地元の学童クラブや高校にお声掛け頂き、飛び入りも含め10人ほど児童生徒が参加頂きました。 フロッタージュは学校で教材としても扱われる素材の凹凸を紙に鉛筆や木炭、クレヨンなどで写し取る技法です。版となる素材は池田記念美術館内の壁や床などの人工物や美術館外の公園にある草や木などの自然物です。使用した紙は雁皮紙などの和紙、描画道具はクレヨン、パステル、クーピー、色鉛筆、ペンなども用意しました。 導入では版画の仕組みと版について参考程度に説明し、フロッタージュでは身の回りにある凹凸を版にして形や模様を写し取ることを実演を交えて教えました。そして道具を持って外で素材を探し写す子や、美術館の壁や床を写す子など各自の判断でフロッタージュに取り組みました。引率の先生や保護者の方も一緒になって作業に取り組んでいました。 次の展開ではフロッタージュで得た和紙を大きな木製パネルに貼り込むという作業でした。木製パネルには事前にシリウス水彩紙を水張りしており、その上に水に溶いた糊をローラーで広げその上に和紙を貼っていきます。このワークショップの1番の特徴として和紙を貼り重ねても下の色や形が隠れないことにあります。それは雁皮紙の薄さを応用したもので、おかげで子どもはためらうことなくパネルに和紙を貼っていきました。そして貼り重ねれば重ねるほど形も色も複雑になりまた華やかになっていきました。シュールレアリストたちもびっくりな表現です。 そうしてどんどん貼り重ねていき、まとめの段階では最後に作者である子どもたちの名前を書いた和紙を貼り込んで無事に作品4点が完成しました。どの子もアンケートにはフロッタージュの楽しかった気持ちを文字にしており今回のワークショップは大成功でした。このワークショップ作品は子どもたちがそれぞれつけたタイトルと共に、巡回展の最初の部屋である企画展示室前の入り口の壁一面に展示しました。これにより小学生から高校生、そして会員という大きな広がりを持った展示会場となりました。またこのワークショップ作品は巡回展後の別の企画展でも特別展示の予定とのことです。 このワークショップの成果は子どもたちへの版画のきっかけとなっただけではありませんでした。ワークショップにお越しいただいた上越教育大学の松本健義教授の研究資料となり、場合によっては研究や論文を見た大人や教員の糧になり、結果また子どもへの教育に還元されるかもしれません。さらに途中、南魚沼市教育委員会教育長が出張前というお忙しいスケジュールの中、飛び入りでワークショップにご参加頂き子どもたちと共にフロッタージュと貼り込みを体験されました。この突然の教育長来訪には理事長はじめ皆さまとても驚いておりました。ワークショップが終了し子どもたちが帰り、静かになった空間で、巡回展係と池田記念美術館そして南魚沼市の子どもへの教育の歩みが一致した清々しさを感じました。次に繋がる巡回展になることを期待しています。 その後のギャラリートークではワークショップも体験して頂いた小林敬生さん、上野遒さんの采配の元、有志で大沼正昭さん、そして遠方よりご来館下さいました磯見輝男さん、園山晴巳さんもご参加頂きました。特に上野さんは南魚沼市と縁が深く、戦後南魚沼市六日町に移り住んだ父 上野誠さんとの思い出や、作品が発する詩という解釈など興味深いものがありました。会場には新潟在住の画家や彫刻家、版画コレクターの方々がお越しになり、先生方の話を真剣に聞き入っていました。その後の懇親会も皆さまご参加頂き、盛大な席となりました。新潟のお米とお酒は格別でした。こうして私の巡回展係としての2022年度の大仕事が終わりました。 初開催という今回の巡回展だったため南魚沼滞在では以下のように多くの成果を得ることができました。 ・池田記念美術館での巡回展の隔年開催の意向を得ました。美術館のスケジュールの都合上2~3年後とのことです。 ・日本版画協会と南魚沼市教育委員会教育長との繋がりを得ました。巡回展の継続や地域との交流や発展に大きく関係することと思います。 ・須坂版画美術館での巡回展開催に向けた打ち合わせをしました。長野県須坂市にある須坂版画美術館から学芸員の方がご来館下さいました。会員の岩切裕子さんのご紹介で事前に学芸員の方とコンタクトを取らせて頂き、隣県ということもあり池田記念美術館に足をお運び下さいました。須坂版画美術館は今後改修工事が始まるとのことで巡回展開催は1~2年後とのことです。今後の進展を期待しています。 ・はんが甲子園作品の合同展示や子どもに向けたワークショップ、そして完成した作品の展示を実現しました。
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